magcupの日記

何でも引き付けるカップ、magcup

SHARPの安物ステレオのカートリッジをMMに取り替えた話

SHARP、オプトミニ。型番GS-1500、1970年代。ステレオコンポと言うより、レコードプレーヤで一応ステレオになっているモノ、と言った方が良い。
小学生の頃、ステレオが欲しいと言ったら買って貰えたモノがこのオプトミニである。70年代前半だったと思う。こちらで詳しく解説されている。
当時は小学生のくせにステレオなんか買って貰って!と言われかねない状況だったけれど、このOptminiなる製品は小学生にもわかるくらい、かなり怪しい性能であった。

  • ステレオはレコードのみで、FMはモノラル
    • 父親にあとで説明すると、「みかけはステレオっぽいのになぁ」と、ショックを受けていた
  • 4チャンネルステレオと称していたが、スピーカーマトリクス式のなんちゃって方式
    • 左の+と右の−に逆相で二つのリヤスピーカーを繋ぐタイプ。カラオケ的な残響が聞こえる。
  • ステレオはクリスタルカートリッジ
  • 付属のヘッドホンは輪をかけて安物。ドライバはフツーのラジオ用スピーカー

それでも、モノラルしか聞いたことのない耳には、左右別々の音が聞こえてくるのは新鮮であった。FMチューナーがステレオ対応で無かったのがつくづく残念に思えた。

とまあ、ここまでは大したことない話なのだけれど、買って貰って数年、大分飽きて来た頃。「ホンモノ」のステレオを所有している友人の家で、MMカートリッジ(moving magnet)の音を聞かされてショックを受けた。クリスタルカートリッジとは全く次元の違う繊細な音であった。
高校に入ったばかりのころ、学校の帰りに、今は無き石丸電気に立ち寄ると、交換用のMMカートリッジが売られている。もちろん、何万円もするものが主流であったが、良く探すと、四千円くらいのものがあった。これなら自分のお金で買える!
と後先考えずに買い込んでしまい、家に帰ってさあ困った。全く形状が違う。
しかし、幸運なことにこのオプトミニのステレオアーム、クリスタルカートリッジのくせに、直結でなく、ワイヤ接続になっていた。と言うことは、無理矢理、物理的に取付さえすれば配線は簡単だ。ワイヤをピンに繋ぐだけだ。
カッターナイフでプラスチック製のアーム先端をごりごり加工して、無理矢理、MMカートリッジを嵌め込んだ。水平になるように気を付けた。
これで完璧と思ったのも束の間、指でアームを持ち上げると重いの何の!これをレコードに乗せたら、レコードが削れる以前に、針が折れると言うのが前もって分かるくらい重い。一瞬、目の前が真っ暗になった。でも、初歩のラジオの広告欄に載っていた「アーム」にはどれも根元に重りのような円筒形のものが付いていたのを思い出した。かなり重そうなものだ。
しかし、オプトミニのプレーヤは筐体自体、あまり大きくなく、LP盤が飛び出すくらいなので、あまり大きなものは付けられない。比重の大きなもの、と言えば、鉛である。そんなものは手にはいらない、わけではなかった。
当時、カーショップに働きに出ていた母親が、何を血迷ったか、タイヤ交換で捨てられた古い「バランス」の重りを缶一杯に持ち帰って来ていたのを思い出した。彼女は何かに使えそうなのにもったいないと言う一心で意味もなく持ち帰ったらしい。
適当なのを1〜2個貰い、これを加工するのであるが、鉛はハンダの原料で、ハンダより少しだけ融点が高いことを思い出して、ガスコンロで溶かすことにした。金属製のマジックインキの筐体を分解して、根本から2センチくらいをカッターナイフで切り取り、ごく小さな「缶」を作った。これにバランスを入れてガスで溶かし、円筒形の重りを作り、太い銅線をループのように取り付けてアームの根本に押し込んだ。
で、どのくらいの重さにすればよいのか、最初、見当が付かなかったが、これも、初歩のラジオのオーディオ欄に、針圧の調整はカートリッジの上に一円玉を置いて見る、と言うような記事があったのを思い出した。とすれば、数グラムに違いない。ちょうどバランスが取れて釣り合うところから、数グラムのところで、根本の銅ワイヤを固定した。
さあ、これでMMカートジッリの音がいよいよ聞ける、とカートリッジの指掛けを掴んで驚いた。水平のバランスが全く取れていない。鉛の錘は上下を釣り合わせただけだったのだ。これも、初歩のラジオのオーディオ欄に出ていた高級アームの形状で、何だか、横方向に、糸に付けた錘がぶら下がっているタイプがあったのを思い出した。しかし、微妙なバランスを取るのは難しそうである。結局、根本の錘の取付方向をぐりぐりいじっていたら、あっさりバランスが取れてしまった。

いよいよ、レコードを聞いてみる。安物のステレオであるから、キャプスタンによるリムドライブであり、ごろごろ音がするのは仕方が無い。しかし、クリスタルカートリッジではついぞ聞けなかった、澄んだ音が出て来たときには本当に嬉しかった。

後でいろいろ調べると、電磁誘導で動作するMMカートリッジには専用イコライザが必要と言うことなのだけれど、そこは安物のオプトミニである。安いアンプと安いスピーカーのおかげで、適度に高温側帯域が絞られており、イコライザを付けずに鳴らして、ちょうどフラットになったというわけ。
タイヤ用のバランス錘を持ち帰った母親はこの話のすぐ後に白血病を患い、翌年、亡くなった。当時は、未だ、急性白血病については一年持てば良い方だったらしい。

TC-K7と、デンオンのアンプPMA-451とオプトミニ(まだ改造してない)、スピーカーはヤマハの10M
その後、ラックとレコードプレーヤを買い、さらに、79年に、追加のデッキTC-K77を自分で購入。
2005年撮影
レコードプレイヤー(ターンテーブル)は、パイオニアのPL-50L

 
(父の想い出)
(後記)このSHARPのステレオコンポ以前に、父親が購入した、やはり、SHARPのレコードプレイヤー一体型のポータブルラジオがあった。
筐体は白と赤で、表側がラジオ。裏返して、蓋を開けると、レコードプレイヤーになる。ターンテーブルは無く、中心部の枠にレコードの孔を嵌め込む。回転は、リムドライブで、直接、レコードを回す。「ソノシート」のように、柔らかい盤面の場合は、下に一枚、レコードを敷いてその上に載せよ、とマニュアルには書いてあった。
驚くべきことに、LPも演奏出来た。筐体から、レコード盤面もトーンアームも、全てが完全にはみ出るのであるが、完全に動作するのである。確か、筐体の足を立てて、浮かせて使う方式だったのであるが、詳細は思い出せない。クリスタルカートリッジは寿命が短いので、自分で近所の電気屋に買いに行った記憶がある。
電源は単一3本で、ACアダプタも付いていた。DC入力端子は無く、ACアダプタ(3.6V出力)の筐体が単一電池1本の形状になっていて、それを電池ケースに無理やりセットする。
小学生にはちょっと怖かった。

後年、昭和50年頃、そのポータブル電蓄を完全にバラシてしまい、モーターを取り出した。結構、強力なモーターで、隙間から見ると、回転子や界磁ではない部分で放電の光が見える。
蓋を開けてみると、機械式のガバナー(調速機構)になっていて、回転が上がると、遠心力で重りの付いた板バネが広がって、接点が開く、と言う原理だった。その接点の開閉での放電が見えたのだ。
原始的と言えばそうなのだが、原理が理解出来て大変嬉しかった。